磯崎 潤 医師らによる症例報告・文献レビューが、国際学術誌 Cureus に掲載されました。
論文情報
Isozaki J, Onodera H, Shioda M, Sakata K, et al.
Endovascular Management of Traumatic Intracranial Aneurysms Using the Pipeline Flex Embolization Device with Shield Technology Under Single Antiplatelet Therapy: A Case Report and Literature Review.
Cureus. 2025;17(8):e90284. doi: 10.7759/cureus.90284.
研究概要
外傷性脳動脈瘤(TICA)に対して、Pipeline Flex Embolization Device with Shield Technology(PED-Shield)を単剤抗血小板療法(SAPT)下で用い、母血管を温存しつつ瘤の完全閉塞を達成した症例を報告しました。従来、TICAの標準的治療は母血管閉塞(PAO)が主流でしたが、本症例では抗血小板薬を単剤に抑えることで出血リスクを軽減しながらフローダイバーター治療を実現しています。著者らの知る限り、外傷性動脈瘤に対するPED-Shield+SAPTの報告は初であり、文献レビューとあわせてその妥当性を示しました。
臨床的意義
急性期外傷では出血傾向や多発外傷のためDAPTの適用が難しい一方で、母血管を犠牲にするPAOは虚血リスクを伴います。本報告は、低血栓性コーティングを有するPED-ShieldとSAPTの組み合わせが、出血合併症の増大を抑えながら母血管温存を実現し得ることを具体例で示しました。非外傷性病変で蓄積しつつあるSAPT併用FDの知見とも整合し、DAPT困難な外傷症例における実践的な代替選択肢として位置づけられます。今後は、出血・血栓リスクの層別化、画像フォローによる瘤リモデリングの定量評価、周術期管理(抗血小板薬の選択・用量・期間)の最適化を通じて、適応基準と安全性の外部妥当化が求められます。
社会的意義
TICAは稀だが重篤で、若年者や多発外傷患者を含む高リスク集団に発生し得ます。本報告は、侵襲と合併症の最小化を追求する観点から、母血管温存をめざす内科的・血管内的戦略の可能性を示すものであり、今後の治療指針のアップデートや個別化医療に資するエビデンスの一端を担います。
当教室では、頭部外傷と血管内治療の両分野共通の課題であるTICAに対する治療戦略の確立に取り組んでまいります。