ORAIP(酸化ストレス反応アポトーシス誘導蛋白)は脳虚血・再灌流において重要な働きをする
- 脳梗塞後に組織は壊死し,後遺症を残します.虚血時間が短く側副路が発達した場合には,運よく再灌流した場合に回復することがありますが,その場合にも再灌流による酸化ストレスで障害が進行することが知られています.共同研究者の順天堂大学 世古義規博士が同定されたORAIP(酸化ストレス反応アポトーシス誘導蛋白)は,酸化ストレス時に放出され,またORAIP抗体投与で組織の壊死を押さえることが発表されています.(Seko, Y. et al. Secreted tyrosine sulfated-eif5a mediates oxidative stress-induced apoptosis. Sci. Rep. 5, 13737 (2015). doi: 10.1038/srep13737.)
- 脳虚血,再灌流でもORAIPが関与し,抗体投与により虚血を減少させられることを発表しました.(Kishimoto, M. Brain and Brain PET 2017, Berlin)
外傷性脳損傷に対し他家骨髄間葉系細胞 (SB623) 移植による第2相試験(STEMTRA試験)
- 2017年4月~2018年3月で治験登録期間は終了しました.当院でも国内5大学の一つとして,サンバイオ社の治験に参加しました.
- 本試験の主要評価項目Fugl-Meyer Motor Scaleにおいて,運動障害を伴う慢性期外傷性脳損傷患者にSB623を投与した群は,コントロール群と比較して,統計学的に有意な運動機能の改善を認め,主要評価項目を達成しました.24週時点のFugl-Meyer Motor Scaleのベースラインからの改善量は,SB623投与群で8.7点に対し,コントロール群では2.4点でした.また,安全性についても,SB623のこれまでの試験の安全性プロファイルと一致しており,新たな安全性の懸念は認められませんでした.本試験結果を基に,SB623の承認申請は,国内で2020年1月期中を目指しています.たくさんのお問合せありがとうございました.
- 末永潤講師がNHKオンデマンド Medical Frontiers The Brain Can be Regenerated に取り上げられました.
高齢者の脳梗塞後長期での神経脱落症状は,ミクログリア/マクロファージの極性と白質障害の程度に関連する
- 実験的な脳梗塞モデルは,若年マウス/ラットが用いられますが,これは高齢では梗塞が大きくなり致死率が高くなるためです.我々は,開頭による遠位中大脳動脈閉 (distal MCAO) モデルで,18か月の高齢マウスで致死率4%の安定した脳梗塞モデル作成に成功しました.
- 脳梗塞後には,脳内のマクロファージであるミクログリアが活性化され,早期には組織修復性のM2の働きをしていますが,徐々に瘢痕組織修復など組織障害性のM1の発現にシフトすることが知られています.(Hu, X. et al. Microglia/Macrophage polarization dynamics reveal novel mechanism of injury expansion after focal cerebral ischemia. Stroke.43, 3063-70 (2012).)
- 高齢では,若年の脳梗塞モデルに比べて,血流低下が大きく,脳梗塞も拡大.運動機能,白質の障害も大きく,若年モデルに比較し,運動機能および記憶力などの低下,改善の遅延を認め,これは白質障害のダメージと相関していました.ミクログリアの活性では,組織保護のM2の働きが低下していました.
その他
脳虚血後慢性期における神経回路リモデリングに関する研究も行い,発表しております.