脳卒中の治療

当大学病院では,血管外科治療および血管内治療を有し,積極的に脳卒中治療を行っています.対象疾患として,未破裂脳動脈瘤・内頚動脈狭窄症・もやもや病・脳主幹動脈閉塞症(狭窄症)・脳動静脈奇形・脳海綿状血管腫などが主なものです.

近年の脳ドックやMRI普及に伴い,以前より多くの方に,無症候性の病変や,比較的軽症の病変が見つかっております.しかし,患者さんにとって最も重要なことは,見つかった病変は治療が必要なのか,経過観察でよいのか,また治療が必要な場合,最近の知見における有効な治療法は何かを的確に知ることです.

当院では,当科で提供できる最新の技術とデータをもとに治療適応を判断し,外科治療および血管内治療ともに,患者さんの納得のいく治療を提供しております.本大学病院では外科治療部門および血管内治療部門ともに,最新の治療を充実させており,それぞれの疾患・病態に応じて両治療を選択しています.直近3年間における脳卒中予防的手術全般での,永続的重症手術合併症率は3%未満を維持しており,死亡例はありません.

当院では脳動脈瘤外来,脳動静脈奇形外来,脳虚血外来,もやもや病外来を開設しています(月曜,水曜).該当される方は紹介状(診療情報提供書)をご持参のうえ,ご相談ください.

治療各論

以下に,当院で多く行われている手術の実例を示します.

未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術

術前無症候のことが多く,動脈瘤をクリップでつぶし,かつ術後に元の生活に復帰できることを目指します.ここ数年でさらに症例数が増加し,新型顕微鏡・多チャンネル脳機能モニタリングシステム・ICG(インドシアニングリーン)術中蛍光血管撮影・脳血流量計が装備され,より安全確実な手術が可能となっています.

図1 左内頚動脈未破裂脳動脈瘤
左:術前2.2cm大の動脈瘤 右:術後動脈瘤の消失を認めた
図2 左内頚動脈海綿静脈洞部未破裂脳動脈瘤
左:術前3.5cm大の動脈瘤 右:内頚動脈遮断 + バイパスで動脈瘤の消失を認めた

破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)に対するクリッピング術

くも膜下出血は,医療の発達した昨今においても,未だに高い死亡率・重篤な後遺症率を示しています.予後に影響する因子は,手術だけでなく,その前後における全身管理が極めて重要です.当院では,救急部およびICUスタッフの協力,さらには大学病院ならではの高水準の他科サポートを得て,迅速な対応・厳格な管理を行っています.

図3 左内頚動脈瘤破裂によるくも膜下出血
左:2.5cm大の動脈瘤 右:術後動脈瘤の消失を認めた

内頚動脈狭窄症に対する内頚動脈内膜剥離術

当科では,徹底的に統一した手順を確立しており,極めて安定した手術成績を収めています.術前検査では,従来のカテーテル検査から,3T-MRI black blood法にてプラークの性状や広がりを詳細に検討しています.頸動脈内の動脈硬化プラークを切除する際も,シャント(側副路)を設置し,脳機能モニタリング(SEP体性感覚誘発電位, NIRO近赤外線脳血流モニター)を行い,合併症リスク低減を図っています.術後も,ICU管理とし,頸部の安静および厳格な血圧管理のもと,出血合併症に対しても十分な配慮を行っており,ここ3年間で合併症ゼロを貫徹しております.

図4 脳梗塞で発症した右内頚動脈 (90%)
左下:術前3DCTで右内頚動脈高度狭窄を認めた 左上:3T-MRI BB法では,不安定プラークの診断 右:術後プラークは消失し,狭窄部の十分な拡張を認めた

もやもや病・慢性脳虚血に対する治療:脳血行再建術(脳血管バイパス術)

当科では,もやもや病や脳動脈閉塞症および狭窄症に対して,積極的にバイパス血行再建術を行っています.1mm前後の血管を数本吻合する微細な手術手技でありますが,豊富な経験数をもとに安定した成績を維持しています.厳格な手術適応と術後管理も科学的根拠に基づき統一して行っています.当院ではもやもや病外来・脳虚血外来を行っております.該当される方はご相談ください.

図5 虚血発作で発見された右内頚動脈閉塞症
左:術前右大脳半球の脳血流は認められない 右上:脳血流も左と比較し右は低下している 中央・右下:術後バイパスによる血流改善を認めた

脳動静脈奇形に対する摘出術

脳動静脈奇形は比較的稀な疾患でありますが,年間100万人あたり10人前後,出血や痙攣で発症します.出血発症し,その後落ち着いても,5-15%程度は同年に再出血を経験し,状態の悪化につながります.そのような症候性脳動静脈奇形に対しては,可能であれば手術で全摘出することが全治を得るうえで重要です.しかし,部位や大きさにより危険を伴う場合は,カテーテルによる塞栓術や放射線治療を併用して複合的にコントロールをしています.

図6 脳出血で発症した小児脳動静脈奇形 (AVM)
左:術前脳血管撮影 右:血腫除去およびAVM摘出術後.AVMの消失を確認した

海綿状血管腫に対する摘出術

海綿状血管腫は,比較的若年者に多く,出血やけいれん発作で発見され手術摘出が必要になります.反復する小出血および強い脳浮腫を伴う場合も積極的な手術摘出が必要です.生命活動の中枢でもある脳幹部に発生する場合もあり,症候性や出血を繰り返す場合は,厳格な電気生理モニタリング下に,積極的に手術を行っています.

図7 右側頭葉〜基底核外側部の海綿状血管腫 (CA)
左:右脳深部に浮腫を伴う巨大なCAを認める 右:手術で完全摘出し,浮腫も消失した.

脳卒中の緊急治療

当院には2009年より,救急部門が立ち上がり,地域救急医療も積極的に担っております.その中でも脳神経外科は脳卒中診療を中心として大きな役割を果たしております.

対象疾患として,くも膜下出血・脳出血,脳血管閉塞が主なものとなります.この脳出血の原因としては,高血圧性のほか,脳動静脈奇形や海綿状血管腫なども含まれており,緊急手術および血管内治療を行い,厳格なICU管理にて良好な成績を収めております.また,脳血管閉塞については血管内治療による血栓回収療法が良好な成績を収めています.救急専門病床の拡充されており,益々地域の脳卒中医療の中核となってきています.

また,脳卒中後の様々な後遺症に対しては,地域回復期リハ病床と連携パスを構築しており,早期リハビリを積極的に行い,以前より治療ゴールが改善しております.

脳血管障害外来を受信される方へ

当院では脳動脈瘤外来,脳動静脈奇形外来,脳虚血外来,もやもや病外来を開設しています(月曜,水曜).一般に治療困難とされる巨大脳動脈瘤や脳動静脈奇形,もやもや病などの難治例も多く対応しております.詳細は担当専門医にご相談ください.

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