てんかんについて
てんかんを持つ人の割合はおよそ100人に1人といわれています.てんかん発作のタイプに応じた薬物治療(抗てんかん薬)により7割の人は発作が抑制されますが,3割の人は薬剤抵抗性です.そのような薬で止まりにくいてんかん発作(2種類の薬の使用や1年の治療期間でもコントロールされないことが目安で,難治てんかんと呼びます)に,てんかんの外科治療が有効なことがあります.
横浜市立大学附属病院の脳神経外科では難治てんかんに対するてんかんの外科治療を行なっています.
てんかんの外科治療
てんかんの外科治療を考えるときに,てんかんのタイプを正しく診断することや,手術によってどれだけの恩恵が得られるかを十分に検討することはとても重要です.どのような手術が向いているかや,その手術によって得られるメリットとデメリット(リスク)のバランスを具体的に考えることができるからです(てんかんの外科治療までの流れ).
てんかんの外科治療には,焦点切除術,側頭葉切除術,半球離断術,脳梁離断術,迷走神経刺激 (VNS) などの手術方法があります(てんかん手術の詳細).
横浜市立大学附属病院は,YCUてんかんセンターを設置し,高度なてんかんの検査と治療を提供しています.高磁場MRI (3.0T-MRI) やPET,SPECTといった高度な画像診断機器に加えて,2018年度から長時間ビデオ脳波モニタリングシステムを導入し,正確なてんかん診断のための体制が整えられています.また市大センター病院と共同で,診療科横断的(神経内科,精神科,小児科,脳神経外科)に協力できる体制を構築しており,手術を行うにあたり十分な検討ができるようになっています.
薬物治療でてんかん発作が止まらない場合には,外科治療の可能性を検討することが推奨されています.コントロールがつきにくい発作でお困りの際は,一度ご相談ください.
てんかんの外科治療までの流れ(概要図)
地域や院内での密な連携のもと,患者さんにとって最適な治療方針を提案しています.多科・多職種によるカンファレンスを行い,詳細に治療方法を検討しています.
てんかん手術の詳細
代表的なてんかんの原因
- 海馬硬化症
- 皮質形成異常(限局性皮質異形成,片側巨脳症,皮質結節/結節性硬化症,異所性灰白質)
- 腫瘍(神経細胞系および混合神経細胞・膠細胞腫瘍など)
- 炎症性病変(脳炎後てんかん,ラスムッセン脳炎)
- 血管性病変(海綿状血管腫,脳動静脈奇形)
- 瘢痕性病変(瘢痕脳回)
代表的な術式
側頭葉切除術
側頭葉てんかん(「ぼーっとする」発作症状)の病因として,海馬硬化症や内側側頭葉に限局した腫瘍や血管性病変がある場合などが適応です.発作を抑制できる確率が約70%かそれ以上と高く,もっとも代表的なてんかん外科手術法です.
頭蓋内電極留置術を経た焦点切除術
脳から直接脳波を記録する頭蓋内脳波により,てんかん発作に関与する脳領域 = 焦点を明確にした上で,切除術を行う方法です.焦点と機能している脳領域の位置関係をはっきりさせるために脳機能マッピングという検査を頭蓋内電極留置中に行うこともあります.1回目の手術は頭蓋内に電極を留置して終了です.その電極を用いて,数日から1・2週間かけて頭蓋内脳波の記録と脳機能マッピングを行い,2回目の手術で焦点を切除します.これにより,発作を止める確率を最大限に高めて,神経機能の温存を図ります.
当施設では2021年10月より日本全国で初めて脳神経外科手術用にCirqロボットアームシステムを導入し,頭蓋内電極留置術をより短時間かつ正確に行える医療体制を構築しています(プレスリリース).
半球離断術・多葉離断術
てんかんの焦点が脳の広範囲〜片側大脳半球全域に及ぶ場合が適応です.切除(取り除く)ではなく離断(切り離す)することで,焦点のてんかんの活動が周囲に広がらないようにして,発作を抑制します.根治的な治療を目指す切除外科に相当します.
脳梁離断術
左右の大脳をつなぐ脳梁という神経線維の束を離断することで,発作を軽減させる方法です.緩和外科に相当します.通常焦点がはっきりしない場合に行われます.力が抜けて倒れるタイプの発作(脱力発作)に特に有効です.また,この手術のあとに焦点がはっきりしてくる場合があり,焦点切除術などの切除外科につながることもあります.
迷走神経刺激療法
迷走神経に弱い電流を流すことで,脳に間接的に介入して,発作を軽減させる方法です.頚部で神経にコイルを巻きつけて,胸部に入れた小さな電池と皮下で接続します.全てのタイプの難治てんかんに適応となる緩和外科手術です.この治療を受けたおよそ6割の方が発作が半分以下になることが期待できます.