岡崎先生らの研究グループ(指導者:堀聡先生)は、小児でくも膜下出血と脳梗塞を合併した極めて稀なトリプタン誘発性可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)の一例を報告しました。
Okazaki Y, Hori S, Takagi R, Nakamura T, Ohtake M, Onodera H, Kawasaki T, Sakata K, Yamamoto T: Pediatric Triptan-induced Reversible Cerebral Vasoconstriction Syndrome with Both Hemorrhagic and Ischemic Stroke: Case Report and Literature Review. NMC Case Rep J, 12:303-308, 2025. doi: 10.2176/jns-nmc.2025-0023.
症例概要
片頭痛治療として投与されたトリプタンを契機に、可逆性脳血管攣縮症候群(RCVS)を発症した小児例を報告します。本症例では、血管攣縮発症後にくも膜下出血(SAH)と脳梗塞の双方を合併し、画像所見も非常に示唆的でした。適切な治療介入により、症状・血管攣縮ともに寛解を得ています。
臨床的意義
RCVSは多因子で誘発され得る疾患ですが、トリプタン誘発例、とりわけ小児は稀少です。本症例は、血管攣縮が出血性・虚血性イベントの双方へ波及し得ることを強く示しており、片頭痛治療におけるトリプタン使用時には適応・投与量・併用薬を慎重に吟味し、早期の神経学的再評価と画像追跡(MRA/CTA、必要に応じてDSA)を計画的に行う重要性を浮き彫りにしました。とくに、頭痛パターンの急変、巣症状の出現、意識障害や痙攣などの警戒サインが見られた場合には、RCVSの鑑別と迅速な血管評価が推奨されます。
社会的意義
片頭痛は小児・思春期にも頻度が高く、生活の質に大きく影響します。一方で、鎮痛・急性期治療の安全性確保は最優先課題です。本症例は、有効薬であっても稀に重篤な合併症を引き起こす可能性を医療者・ご家族双方に周知し、安全な薬物療法の枠組みを整える必要性を示しています。
当教室では、今後も安全性に配慮した治療最適化とエビデンスの蓄積を通じて、患者さんとご家族の安心につながる医療提供に努めてまいります。