脊髄疾患に関する研究

研究内容

私たちは研究のための研究ではなく,臨床に即還元できる基礎研究を念頭に研究を行ってきた.ヒトでの運用は当座難しいが,動物において擬似モデルを作成し,臨床への解決を見いだそうというものである.

ラット慢性脊髄圧迫モデルについて

この中で,私たちは慢性脊髄圧迫による遅発性脊髄症モデルを用いた研究を行っている.圧迫性脊髄症は,頚椎症,椎間板ヘルニア,後縦靱帯骨化症といった私たちが日常経験する脊髄脊椎疾患が該当し,極めて頻度が高い.これらの疾患は,突然発症,悪化するのではなく,圧迫が始まってから,徐々に脊髄症が進行していく.画像上圧迫の進行がない場合でも脊髄症は進行していくことが多い.こうした病態は,よく知られた事実であるが,これを具現化する動物モデルがなかった.金ら(獨協医科大学脳神経外科)は吸水性ウレタンの吸水膨張を利用して慢性脊髄圧迫により遅発性に脊髄症を誘導することに成功した (Kim, Ann Neurol, 2004).これは,吸水性ウレタン(アクアプレンR)をラットの椎弓下に挿入し,ゆっくりと吸水膨張させ,徐々に脊髄圧迫を図るものである.72時間で容積率約230%となる.ゆっくりと吸水膨張させることで脊髄損傷を回避し,脊髄を順応させながら脊髄圧迫を誘導できる.アクアプレン挿入当初,脊髄症は発症しないが,5-8週して,運動機能は低下していく.圧迫部での動的負荷と慢性虚血が進行していることが原因である.これは,ヒトの頚椎症の病態に極めて近似しており,単純な圧迫性脊髄症のみならず頚椎症性脊髄症のモデルとしての役割も担う.私たちは当初から,このモデル研究に携わり,現在,同モデルを運用できているのは当大学のみとなっている.

ラット慢性脊髄圧迫モデル(遅発性脊髄症モデル) C5-6に吸水性ウレタンが挿入されている.圧迫を受けた脊髄は,5週以降で脊髄変性が進み,25週でほぼ症状が固定する.

慢性脊髄圧迫モデルに対するG-CSFやエリスロポエチンの効果

このモデルを用いて圧迫性脊髄症における顆粒球コロニー刺激因子 G-CSF (Yoshizumi, Murata et. al. SPINE 2016) やエリスロポエチン (Tanaka, Murata et. al. submitted) などの造血系サイトカインの効果を確認し,臨床応用へとつなげることを考えている.臨床でG-CSFの使用においては臨床倫理審査委員会を経て,一定の適応と枠内で,使用が可能となっている.詳しくのべることはできないが,さらに新しい知見が得られており,今後の脊髄障害医療に大きなインパクトを与えるかもしれない.これに携わる研究員(大学院生含む)を募集中である.

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