海外留学経験から得たもの―世界に飛び出すことで広がる視野と可能性―

2018年5月から2021年9月までの約3年半,米国ミシガン州デトロイトのWayne State University / Michigan Children’s Hospitalで,浅野英司教授のもと,難治性てんかん患者を対象とした頭蓋内脳波解析を中心に研究に従事しました.最先端のてんかん診療と脳神経科学に触れ,日本とは異なる医療体制や文化の中で過ごした日々は,かけがえのない経験となりました.現地で得た知識・技術・視点,そして人とのつながりは,現在の診療・研究・教育活動の大きな礎となっています.

私は,神奈川県における持続可能なてんかん外科体制の構築という教室のミッションを担い,この10年間,その実現に向けて取り組んできました.海外留学に先立ち,てんかん専門医を志して約5年間,西新潟中央病院の機能神経外科および新潟大学大学院神経生理学教室にて,てんかん外科診療と神経科学研究の基礎を学びました.そしてその延長として,臨床に還元可能な橋渡し研究 (translational research) をさらに深めるべく,米国での研究留学に挑戦しました.

異国での生活は,計画通りに進まないことの連続でした.特に留学2年目に始まったコロナ禍の影響で,生活も研究も常に模索の中にありましたが,そのような環境だからこそ得られた気づきも多く,柔軟に考え行動する力が自然と身につきました.留学中に築いたネットワークは,現在も共同研究や国際連携へと発展しています.

帰国後は,約8年ぶりに本格的な診療・手術に復帰しました.手術手技や機器の進化に戸惑う場面もありましたが,専門医取得までに培った基礎が支えとなり,円滑に臨床現場へ戻ることができました.現在は,YCUてんかんセンターでの外科診療・研究に加え,脳腫瘍・頭蓋底外科分野なども担当し,脳機能に関する知見を日々の診療に活かしています.留学当初から目的と目標を明確にしていたことで,臨床の場においてもその経験を具体的に還元できていると実感しています.

「診療から離れることへの不安から,留学をためらう」という声を耳にすることがあります.しかし,留学は医師としての成長にとどまらず,自身の価値観や人生そのものを豊かにしてくれる貴重な経験です.人生をかけて脳神経外科医として歩んでいくならば,目先の不安にとらわれず,将来の自分の姿を思い描き,ぜひ一歩を踏み出してみてください.

当教室には,国内外での留学経験を持つ仲間が数多く在籍し,それぞれの学びを共有しながら,互いに高め合う風土が根づいています.多様な診療分野のバックグラウンドを持つメンバーが協働することで,より国際的かつ学際的なチームへと進化を続けています.世界に触れ,自身の可能性を広げたいと願う若い皆さんの挑戦を,心よりお待ちしています.

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